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【私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】漫画はどんな話?ネタバレなし|ひとりの独白だったものが、いつのまにか教室全員の話になっている

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私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い! 1巻 (デジタル版ガンガンコミックスONLINE)

 

昼休みの教室は、どこも似たような音がする。机を寄せる音、笑い声、廊下から戻ってくる足音。その真ん中で、黒木智子は自分の席に座ったまま弁当の蓋を開ける。誰も話しかけてこないし、彼女からも話しかけない。

外から眺めれば、口数の少ない生徒がひとりいるだけの光景だ。ところが、そのコマの余白は文字で埋まっている。智子の心の声である。あいつは媚びている、あの集団は中身がない、私は本気を出していないだけだ——教室でいちばん喋っていない人間が、教室でいちばん喋っている。

序盤の『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』を支えているのは、この落差だ。声に出せない分だけ内側で膨らんでいく自意識と、根拠のない万能感と、些細なことで折れる自信。笑えるのだが、笑ったあとに少しばつの悪さが残る。自分の中学時代を勝手に思い出させられるからだ。

そして、この漫画が28巻まで続いている理由は、そこではない。ざわめきの側にいた、顔も名前もなかった生徒たちが、あるときから一人ずつこちらを向き始める。智子の独白の外側に、別の人間の都合が立ち上がってくる。

作品の形そのものが、連載の途中で組み替わっていく。

 

 

ネタバレなしあらすじ

主人公は黒木智子。千葉の高校に通う一年生で、中学時代はゲームとネットに時間を注ぎ込んできた。高校生になれば黙っていてもモテる。そう信じていたのだが、入学から二か月が過ぎても、クラスメイトとまともに言葉を交わせていない。

会話が成立する相手といえば、一学年下の弟・智貴か、中学からの友人である成瀬優くらい。学校の中には一人もいない。焦った智子は状況を変えようと動き出す。

問題は、その動き方だ。髪型を変える。妄想でリハーサルを重ねる。妙な作戦を立てて実行に移す。そのどれもが、狙いから少しずつ外れている。声をかけようとして声が出ない。出たと思ったら余計なことを言っている。

各話は「喪1」「喪2」と数えられ、サブタイトルはすべて「モテないし」から始まる。喪の字が積み上がっていくカウントそのものが、この漫画の初期の手触りをよく表している。

変化は、学校行事のあたりから訪れる。修学旅行や文化祭といった、否応なく誰かと組まされる場面を通って、それまで背景として処理されていたクラスメイトが動き出す。彼女たちにも言い分があり、機嫌があり、面倒な事情がある。智子の一人語りだった画面に、他人の視点が混ざり始める。

痛々しい空回りの記録として読み始めた話が、いつのまにか複数の女子高生の距離が少しずつ動いていく群像劇になっている。その変質の過程こそが、『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』という漫画の本体だ。

 

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作品データ

作者:谷川ニコ(原作・作画による二人組ユニット)
掲載誌・出版社・レーベル:スクウェア・エニックス『ガンガンONLINE』/ガンガンコミックスONLINE
連載期間:2011年8月4日更新分から連載中。月2回更新
巻数・完結状況:既刊28巻。第28巻は2026年3月12日発売、連載継続中
ジャンル:学園コメディ、青春群像劇
アニメ化:2013年7月8日〜9月23日にテレビ東京ほかで放送、全12話。制作はSILVER LINK.、監督は大沼心。原作7巻の初回限定特装版には未放送の「喪13」を収録したDVDが付属。映像化されたのは原作4巻あたりまでの範囲
実写化・舞台化:2026年8月時点で確認されていない
受賞歴:主要な漫画賞の受賞は確認できない。コミックナタリー主催、現役マンガ編集者が選ぶ「第1回マンガ秋100」で第2位
シリーズ累計発行部数:2020年3月時点で330万部突破。それ以降に公表された数字は確認できない
続編・スピンオフ:中学2年生時代を描いた4コマ『私の友達がモテないのはどう考えてもお前らが悪い。』全1巻。ほかに公式ファンブック、コミックアンソロジー、小説アンソロジーなどがある
その他:登場人物の姓の多くは千葉ロッテマリーンズの選手・元選手から取られている。本作は海外の匿名掲示板で先に話題となり、その評判が日本へ逆輸入される形で広がっていった経緯を持つ

世界観と物語の骨格

舞台になっている世界

特別な設定は何もない。千葉の高校、通学電車、放課後のファストフード店、自室のパソコン。事件も異能もなく、命の危険もない。それなのに緊張感が途切れないのは、この世界で「隣の席の人間に話しかける」という行為だけが、異常な難度に設定されているからだ。

智子はスクールカーストの下層にいる、というのとも少し違う。カーストに参加できていない。序列を争う以前に、争いの場へ立てていない。だから彼女は観測者になる。教室の隅から全員を眺め、勝手に名前をつけ、勝手に順位をつけ、勝手に見下し、勝手に打ちのめされる。

この立ち位置が独特なのは、観測される側の情報がほとんど描かれないところにある。序盤の教室は、智子の目に映った通りの形をしている。派手なグループは中身のない集団に見え、優しく接してくれる相手の意図は届かないまま素通りしていく。

世界の狭さが、そのまま画面の狭さになっている。

物語はどう転がっていくのか

話を進めるのは、「今度こそ」という更新され続ける決意だ。作戦を立てる、実行する、崩れる。この三拍子が繰り返される。

ただし同じ失敗の反復にはならない。学年が上がり、席替えがあり、行事が来る。時間が実際に流れているので、同じ場所を回っているようでいて位置が少しずつずれていく。

中盤以降の面白さは、会話劇に移っていく。智子の周りに集まる女子たちは、性格のいい親切な集団ではない。無愛想な子がいて、不機嫌を隠さない子がいて、他人の悪口で場をつなぐ子もいる。それぞれが自分の見栄や不安を抱えたまま口を開くので、噛み合わない。この噛み合わなさが、驚くほど生々しい。

そして、視点が智子から離れる回が増えてくる。彼女がいない場所での会話が描かれ、彼女がどう見られていたのかが分かってしまう。一人語りの漫画としては、これはかなり危険な操作だ。

それでも成立しているのは、周囲の人物にも同じだけの内側が用意されているからにほかならない。

この漫画が描いているもの

智子は長いあいだ、他人を種類で扱っていた。リア充、陰キャ、ビッチ、モブ。分類してしまえば、それ以上考えなくて済む。楽をするために人間を圧縮する作業を、彼女はずっと続けていた。

物語が進むにつれて、その圧縮がほどけていく。ひとまとめにしていた集団の中に、声優になりたいと思いながら隠している子や、友人関係の変化に焦っている子や、他人に合わせるのが上手すぎて疲れている子がいたと分かってくる。彼女たちの側にも、それぞれの独白がある。

同時に浮かび上がるのは、智子自身もまた誰かにとっての背景だったという事実だ。存在感がなく、名前を覚えられておらず、通りすがりに笑われている。

分類する側とされる側は、はじめから同じ場所に混ざっていた。『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』が長い時間をかけて描いているのは、その混ざり方が少しずつ見えてくる過程である。

この作品が刺さる理由3つ

自意識の描写の解像度が異常に高い

人と話すときの緊張、視線への過剰な意識、嫉妬、被害者意識、そして誰にも言えない見栄。どれも誇張された笑いの形で提示されるのに、芯の部分だけが妙に正確だ。

誇張されているのは表現であって、感情そのものは薄めずに出されている。だから笑った直後に、身に覚えのある方向から刺されることになる。

近づいてくる相手が、都合のいい人間ではない

智子の周囲に集まる女子たちは、孤独な主人公を救いに来た善人ではない。感情表現の乏しい子は不機嫌をそのまま出すし、ヤンキー風の子は容赦なく制裁を加えてくる。好意の示し方が屈折しすぎて伝わっていない子までいる。

友情と呼ぶには摩擦が多く、他人と呼ぶには近すぎる。この曖昧な距離が、単純な成長物語になることを最後まで拒んでいる。

変化が遅く、不格好なまま進んでいく

智子は明るい人間に生まれ変わったりしない。卑屈さは残り、嫉妬もし、下品なことを考え、たびたび失礼な発言をする。それでも接する相手は増え、立てる場所は少しずつ広がっていく。

劇的な転身がないぶん、変化のひとつひとつに嘘がない。28巻という長さは、この遅さを描くために必要な長さだった。

こんな人には特におすすめ/合わないかもしれない人

おすすめしたい人

学生時代に教室で居場所を探した記憶がある人
心理描写の細かい学園漫画を探している人
微妙な距離の相手同士の会話劇を味わいたい人
巻を重ねるごとに作品の形が変わっていく長期連載が好きな人
主人公以外の人物にも内面が用意されている群像劇を求めている人

あまり合わないかもしれない人

共感性羞恥が強く、痛々しい場面を見続けるのがつらい人
主人公に最初から好感を持って読み進めたい人
爽やかで前向きな青春像を期待している人
下ネタや品のない言動が多い作品を避けたい人

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最後に

弁当の蓋を開ける音も、机を寄せる音も、一巻のころから変わっていない。教室のざわめきは今日も同じ音量で鳴っている。

変わったのは、そのざわめきの中に、智子が名前を知っている声が混ざるようになったことだ。呼ばれれば返事をするし、昼を一緒に食べる相手もいる。それでも心の中の実況は同じ調子で流れていて、油断すると相当ひどいことを考えているし、見栄も相変わらず張る。

良くなったのは態度ではなく、独白の宛先の数のほうだった。

そして彼女は今日も、名前を覚えていない誰かに心の中で勝手なあだ名をつけている。

つけられた側は、それをまだ知らない。

 

 

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