【Mr.FULLSWING】漫画はどんな話?ネタバレなし|面白い?空振りさえも愛おしい、泥まみれの青春という名の狂気
バットを握る前から、もうだいぶうるさい。
それが『Mr.FULLSWING』だ。
爽やかな汗とか、夕焼けのグラウンドとか、そういう綺麗な言葉で野球漫画を読もうとすると、最初の数ページでだいぶ面食らう。下ネタが飛ぶ。ダジャレが飛ぶ。顔が崩れる。しかも主人公が野球部へ入る理由まで「モテたい」だ。ここまで来ると、むしろ清々しい。きれいな入口なんか最初から用意していない。
ただ、笑って流していると、そのあとが妙に厄介だ。
さっきまで騒いでいた男が、打席に入ると急に景色を変える。ベンチでガヤガヤしていた連中が、一球ごとに息を呑む。ふざけた漫画の顔をしたまま、試合の熱だけはちゃんと喉へ入ってくる。だから困る。下品で、うるさくて、行儀も悪いのに、勝負どころだけ妙に真っすぐだ。
鈴木信也による『Mr.FULLSWING』は、週刊少年ジャンプで連載され、単行本は全24巻、文庫版は全15巻で完結している。文庫版最終15巻には最終話に加えて描き下ろし「帰って来たMr.FULLSWING」も収録されている。途中で待たされず、そのまま最後まで読める。こういう熱量の漫画では、それがやたらありがたい。
作品はどんな話?ネタバレなしあらすじ
主人公は猿野天国(さるの あまくに)。
高校一年。野球経験はない。あるのは、馬鹿みたいな腕力と、声の大きさと、女の子にモテたい気持ちくらいだ。その猿野が、美少女マネージャーの鳥居凪に惹かれたことをきっかけに、名門・十二支高校野球部へ首を突っ込む。甲子園でも、夢でも、父の背中でもない。まず色気だ。通常版の集英社商品情報でも、猿野が「彼女GET」のために無理無謀無茶を繰り返す男として案内されている。話はそこから一歩も逃げない。
当然、最初は浮く。
名門校の空気に馴染むタイプではないし、実際にうるさい。行儀も悪い。野球を続けてきた連中の輪へ、不純にもほどがある理由で飛び込んできたやつが、場違いなままグラウンドへ立つ。けれど、そのまま消えない。人の輪へ無理やり入ってくる勢いと、バットを振る瞬間だけ妙に迷いがないところで、少しずつ試合の真ん中へ食い込んでいく。笑い話で終わりそうな入口なのに、だんだん笑っているだけでは済まなくなる。
エースの犬飼冥(いぬかい めい)は、その熱をいちばん嫌な形で受ける相手だ。
静かで、冷たく、実力も高い。猿野みたいな騒音を最初はまともに相手にしない。だから二人が並ぶと、最初は温度差で画面が割れそうになる。けれど試合になると、その並びのまま押し切ってくる。黙って圧をかける犬飼と、うるさいまま前へ出る猿野。その噛み合っていない感じが、そのままチームの熱へ変わる。
だから話の形だけ拾えば、モテたい男が野球部へ入って成長する物語だ。
ただ、実際の読み味はもっと騒々しい。顔芸と下ネタでページを散らかしながら、いざ勝負へ入ると一打席の重みだけはきっちり残す。ふざけた入口のまま、なぜか熱い試合へ届いてしまう。その無茶さごと読ませるのが『Mr.FULLSWING』。
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基本情報
- 作者:鈴木信也
- 掲載誌:週刊少年ジャンプ
- 巻数:単行本全24巻/文庫版全15巻
- 完結状況:完結済み
文庫版最終15巻の集英社ページでは、最終話と描き下ろし「帰って来たMr.FULLSWING」の収録が確認できる。単行本24巻完結も各所の商品情報で一致している。
作品の構造
世界観
学校名からして十二支。
人名も技名も大げさで、グラウンドにいる連中の顔つきまで普通じゃない。リアル寄りの高校野球というより、ジャンプのバトル漫画がそのまま土の上へ降りてきたような温度で進む。だから最初は戸惑う。こんなに騒いで、本当に試合になるのか、と普通に思う。ところが、その騒がしさを下げずに試合へ持ち込むので、読む側の感覚のほうが先に慣らされる。
しかも、その騒音がそのままチームの空気になる。
誰かがふざける。誰かが怒る。誰かがツッコむ。普通なら散らかるはずのやり取りが、そのまま十二支高校の温度になっていく。ベンチで鳴っている大声や悪ふざけまで含めて、「こいつらの野球」として見えてくる。この雑さを途中で捨てないので、試合へ入ったときの切り替わりが妙に効く。
物語システム
試合が始まった途端、さっきまでのバカ騒ぎが急に凶器みたいな熱へ変わる。
それまで散々ふざけていたやつが、打席に立つと嘘みたいな集中を見せる。この漫画は、その変わり方を恥ずかしがらない。ギャグを切って静かなシリアスへ寄せるのではなく、騒いだ勢いを抱えたまま、勝負の圧へ突っ込む。だから静かな名勝負にはならない。騒音のまま殴り合う試合になる。こっちはまだ笑っているのに、向こうだけ先に本気になっている。その乱暴さで、そのまま胸ぐらをつかんでくる。
技の見せ方も、野球漫画というより半分バトル漫画だ。
「覇竹」「ライズボール」「五光」「彗星ライナー」。文庫版の各巻情報でもこうした技名が確認できるが、派手な名前と派手な演出で押しながら、一球の怖さだけは意外と落とさない。大技を見せる漫画ほど、肝心の勝負が軽くなりやすい。ミスフルはそこを雑にしない。派手に暴れながら、打てるか打てないかの圧だけは残す。そこがいやらしい。
作品テーマ
猿野は、モテたいから始めたくせに、打席へ入るたびその下心ごとバットを振る。
立派な理由をあとから貼らなくても、あいつが一球ごとに意地をむき出しにしてくるので、こっちは黙って見せられる。人としてはだいぶ信用ならない。けれど、試合になると急に見てしまう。腹が立つが、見てしまう。そこが強引だ。
あと、ガンプラでも兵器でもなく、ミスフルでは野球そのものへ向いた瞬間だけ急に目つきが変わる。
普段はだらけているのに、そこだけ妙に筋が通る。下品でうるさいまま終わるなら楽だった。けれど、この漫画はそうしない。ふざけた顔と勝負の顔、その両方を引きずったまま前へ出る。だから読み終わったあと、綺麗な名場面より先に、あの温度差のほうを思い出す。
この作品が刺さる理由3つ
- ギャグの騒音が、そのまま試合の助走になる
うるさい、下品、落ち着きがない。普段のページは本当にその通りだ。なのに、試合へ入るとその騒音がそのまま熱へ変わる。静かに積み上げて感動させるのではなく、ガチャガチャしたまま胸ぐらをつかんでくる。この乱暴さがミスフルの読み味だ。
- 猿野天国の不純さが途中で浄化されない
モテたいから始まる。その入口を途中でなかったことにしない。下心があるまま、バカのまま、それでも勝負どころで逃げない。優等生の熱血より、こういう厄介なやつのほうが妙に忘れにくい。そこが猿野の嫌らしいところで、同時に見たくなるところでもある。
- 犬飼の冷えた顔と、ベンチの騒音が同じ試合へ並ぶ
犬飼があの冷えた顔でマウンドに立ち、横で猿野がいつもの調子で騒いでいる。普通なら温度差でバラバラになるはずなのに、試合になるとその並びのまま押し切ってくる。ベンチで騒いでいた声が、一球ごとに少しずつ低くなる。あの空気の沈み方で、ふざけた漫画の顔が急に剥がれる。
向き不向き
- 合わない人
下ネタや騒がしいギャグが苦手な人
野球漫画にはリアルさや戦術の細かさを求める人
必殺技っぽい誇張表現に乗れない人
主人公の動機が不純だと入り込みにくい人 - 刺さる人
ジャンプの騒がしい熱量が好きな人
ギャグと試合の落差にやられる人
上品ではないが勢いで押し切る漫画を読みたい人
うるさい仲間たちが試合で急に頼もしく見える瞬間が好きな人
まとめ
『Mr.FULLSWING』は、行儀のいい野球漫画ではない。
下品だし、うるさいし、ふざけすぎている。いま読むと、さすがにこれはひどいなと思うページも普通にある。けれど、そのひどさごと前へ押し出してくるから、逆に薄まらない。きれいに整った青春のアルバムではなく、汗と大声と下ネタがそのままベンチへ転がり込んでいるような漫画だ。
それでも、試合になると笑っていられなくなる。
ベンチであれだけうるさかった連中が、プレイボールのあと一球ごとに黙る時間を持ち始める。次に誰が打席へ行くか、犬飼が何球目を投げるか、そのたびにさっきまでのガヤガヤが一段低くなる。あの空気の沈み方で、ふざけた漫画の顔が剥がれる。
面白いかと聞かれれば、綺麗におすすめしづらい。
品の悪さで引く人もいるはずだし、野球漫画へリアルさを求める人には遠い。けれど、空振りしたあとでもまだ前へ出ようとする猿野のしぶとさや、あの騒音の中で急に勝負の顔になる犬飼の冷たさは、変に忘れにくい。綺麗なスポーツ漫画ばかり読んできたなら、一回この騒音に頭を殴られておいたほうがいい。
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