【ドロヘドロ】漫画はどんな話?ネタバレなし|トカゲ男が自分の顔を探しにいく怪奇漫画
ホールの路地へ入ると、壁の染みも濁った空も、魔法使いのドアから流れ込んだろくでもない気配も、まとめて喉の奥へ貼りついてくる。人は死ぬし、体は変なふうにねじれるし、首だって普通に飛ぶのに、その数歩横では店が開き、飯の匂いが立ち、いつもの連中がだらだら喋っている。『ドロヘドロ』を読んでいて頭が追いつかなくなるのは、この「ひどい」と「腹が減る」が喧嘩もせず、同じ景色の中へ平然と置かれているからだ。
カイマンの頭はトカゲだ。
記憶がない。自分が誰だったのかも分からない。口の中には、もう一人いる。魔法使いを捕まえては、その頭を大口へ突っ込み、中の男に「お前じゃない」と言わせる。やっていることはだいぶ最悪だが、この最悪さを最悪なまま押し通すので、読んでいるうちにこっちの感覚のほうが先に慣らされる。気持ち悪いのに、気持ち悪いままで終わらず、そこへニカイドウのギョーザまで並ぶから余計にたちが悪い。
しかも、敵の側までやたら楽しそうだ。
煙ファミリーはろくでもない。ろくでもないのに、ちゃんと飯を食い、仲間内で喋り、誰かがやられると空気も沈む。心と能井は死体解体の途中でも息が合っているし、藤田と恵比寿は敵のはずなのに放っておけない。勧善懲悪で読むには、全員の暮らしが生っぽすぎる。ホールの泥も、魔法使いの世界の派手さも、どっちも並べて好きになってしまう。
小学館の公式配信ページでは全23巻完結、掲載誌は月刊IKKI、ヒバナ、ゲッサンと案内されている。カイマンが魔法で爬虫類の頭に変えられた男で、ニカイドウが食堂を営む友達という紹介も公式情報で確認できる。完結済みなので、途中で温度が抜ける前にそのまま最後まで持っていける。
作品はどんな話?ネタバレなしあらすじ
舞台は二つある。
ひとつはホール。魔法使いたちの練習台にされる人間が暮らす、泥と血と錆びでできたような街だ。もうひとつは魔法使いの世界。ドアを作ってホールへ出入りし、人間を玩具みたいにいじる側の世界だ。公式の第1巻紹介でも、カイマンが暮らすホールに魔法使いがやって来ること、彼が元の姿を取り戻すためニカイドウと魔法使い狩りに立ち上がることが案内されている。
カイマンは、自分をこんな姿にした魔法使いを探している。
そのやり方がまたひどい。捕まえた魔法使いの頭を口へ突っ込み、中の男に判定させる。犯人でなければ違う。犯人なら先へ進む。まともな聞き込みでも推理でもない。胃の悪くなるようなやり方で、自分の過去を掘り返していく。横にはニカイドウがいて、殴るときは殴るし、店へ戻れば飯を出す。この並びが『ドロヘドロ』の軸だ。
ニカイドウの店は「空腹虫」。
ここがまた厄介で、首が飛んだ次の場面で、ギョーザの皮が焼ける。さっきまで魔法使いを狩っていたのに、次のページでは店のカウンターで飯を食っている。惨劇のあとに食卓が来るのではなく、最初から同じ棚に両方置いてあるので、気持ち悪いまま腹が減る。嫌なのに、嫌なままギョーザを食いたくなる。
話は、ただの復讐劇としては進まない。
口の中の男の正体、カイマンの過去、ニカイドウの秘密、十字目のボス、煙ファミリーの動き、そのへんがぐちゃぐちゃのまま絡んでくる。ひとつ見えたと思うと別のところが濁る。第10巻や第21巻の公式あらすじでも、カスカベが十字目ボスの正体に迫り、カイマン、ニカイドウ、栗鼠、煙ファミリーが絡み合いながら話が大詰めへ向かう流れが確認できる。
だから、短く言えば、トカゲ男が自分の顔を探しにいく話で間違ってはいない。
ただ、実際にページを開くと、顔探しの筋だけ追っている暇がなくなる。ホールの路地が気になる。空腹虫の厨房が気になる。煙ファミリーの晩飯が気になる。心と能井の仕事場まで見たくなる。筋だけ追う読み方では足りない。あの空気ごと吸い込むつもりで入ったほうがいい。
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基本情報
- 作者:林田球
- 巻数:全23巻
- 完結状況:完結済み
- 主な掲載誌:月刊IKKI/ヒバナ/ゲッサン
- 出版社:小学館
全23巻で完結している。
長さだけ見ると腰が引けるが、この漫画は途中でぬるくならない。ホールの泥、魔法使いの煙、カイマンの口の中の男、ニカイドウの店、煙ファミリーの食卓、その全部を抱えたまま最後まで行く。中断せず一気に読めるのは、たぶんこの漫画にいちばん合っている。
作品の構造
世界観
ホールは、背景まで湿っている。
壁も床も、全部が薄汚れていて、そこへ魔法の煙が平気で流れ込む。人間は魔法使いに遊ばれ、体を変えられ、運が悪ければそのまま死ぬ。なのに、その街でちゃんと生活が回っている。店があり、飯があり、顔なじみがいる。腐った世界を描いているのに、生活の手触りがやけにはっきりしている。そこがこの漫画の一番嫌なところで、一番好きになるところでもある。
魔法使いの世界へ移ると、今度は派手さの方向で頭が狂う。
マスク、スーツ、煙、料理、屋敷、宴会。見た目は豪華なのに、やっていることは普通にろくでもない。煙ファミリーは人を殺す。容赦もない。けれど、飯の場面ではきっちり飯の顔をする。心と能井は死体のそばにいても二人で並ぶと妙に気が楽そうだし、藤田は下っ端臭いのに、その下っ端臭さごと気になってくる。ホールの泥と、魔法使いの世界の派手さ、その両方が同じ速度で好きになっていくので困る。
物語システム
この漫画は、謎で引っぱる。
カイマンの顔は誰のものか。口の中の男は何者か。ニカイドウは何を隠しているのか。十字目のボスは何なのか。煙ファミリーはどこまで絡んでいるのか。ひとつ分かったと思うと、別のところがさらに濁る。推理物みたいに筋道立てて整理されるというより、泥の中から腕を一本ずつ引っぱり出している感じに近い。分からなさが気持ち悪いのに、次を読まずにいられない。
しかも、片側だけ追わせない。
カイマンとニカイドウの側だけ見ていたはずなのに、心と能井の動きが気になる。藤田がまたひどい目に遭っていないか気になる。恵比寿が何をやらかすか気になる。煙が次に何を食うかまで気になってくる。敵味方というより、全員の暮らしがそれぞれの速度で流れている。そのせいで群像劇としても強い。誰の皿にもちゃんと飯が乗っている漫画は、やはり強い。
作品テーマ
カイマンは、自分が誰なのかを知りたい。
ただ、その「知りたい」が綺麗ではない。泣きながら過去を思い出す話でもなければ、優しい人に支えられて本当の自分を見つける話でもない。相手の頭を口へ突っ込んで、答えを吐かせる。方法がひどい。けれど、そのひどさのまま真ん中まで行く。だから、記憶探しの話なのにやけに生々しい。顔を探しているというより、自分の中に残っている気持ち悪いものを一枚ずつ剥がしていく感じがある。
もうひとつ、飯の存在がでかい。
ギョーザ、肉、キノコ料理。殺す、食う、笑う、また殺す。その並びを、嫌な冗談みたいに何度も見せてくる。グロテスクな場面のあとに食卓が来るのではなく、最初から同じ棚に両方置いてある。そのせいで、惨劇のあとですら腹が減る。ここまで「食う」が漫画の体温になっているダークファンタジーは、そう多くない。
この作品が刺さる理由3つ
- ホールの空気が、ページを開いた瞬間からまとわりつく
ただ暗いだけではない。臭いまでしそうな路地、魔法の煙、ボロい建物、血と油の感じ。その上でちゃんと生活がある。背景を見ているだけで、もうホールへ引きずり込まれる。
- 敵側まで普通に好きになる
煙ファミリーはろくでもない。ろくでもないのに、食卓を囲み、仲間内で笑い、誰かがやられるとちゃんと空気が沈む。心と能井、藤田、恵比寿、そのへんを見ていると、片側だけ応援する読み方では済まなくなる。
- グロいのに、なぜかずっと飯がうまそう
ここが変だし、強い。惨劇のあとに飯が来るのではなく、最初からこの漫画の中では血と料理が同じ棚へ並んでいる。ニカイドウのギョーザを見て腹が減り、次のページで首が飛ぶ。この落差に慣れていくと、もう他の漫画では物足りなくなる。
向き不向き
合わない人
- 首が飛ぶ、身体が裂ける、内臓が見える、といった描写を絵として受け止めにくい人
- 汚れた路地、血、煙、油、カビた壁みたいな「不潔さ込みの世界観」が苦手な人
- 伏線や正体がすぐ一直線に整理されないとしんどい人
- 主人公側だけ気持ちよく応援したい人
- 「なんでそんな平気な顔で飯を食えるんだ」と思うタイプの温度差に乗れない人
刺さる人
- グロいのにキャラへ愛着が湧いてしまう、あの気持ち悪い感覚が好きな人
- ホールの路地、ニカイドウの店、煙ファミリーの食卓みたいに、世界の“暮らし”まで見たい人
- 敵も味方もどっちも好きになってしまう群像劇が好きな人
- 画面の描き込みを眺めているだけで時間が溶けるタイプの漫画を読みたい人
- 「顔を探す話」のはずなのに、気づけば飯と煙とマスクと人間関係まで全部気になる漫画が好きな人
まとめ
ホールの路地へ入った瞬間、壁にこびりついた汚れも、空から落ちてくる嫌な色も、魔法使いのドアから流れ込んだろくでもない気配も、まとめて喉の奥へ貼りついてきて、その数歩横では店の鍋が煮えていて、ニカイドウが当たり前みたいに飯の用意をしているからだ。顔を探す話のはずなのに、気づけばまずあの街の空気ごと頭に残る。
煙ファミリーも同じで、人を殺すし容赦もない連中なのに、食卓へ戻ると急にただの敵では済まなくなる。心と能井がいつもの調子で並び、藤田がまた面倒を抱え込み、恵比寿が場をめちゃくちゃにしているのを見ていると、さっきまで首が飛んでいたことと、次に何を食うのかが同じ棚へ並び始める。勧善懲悪で読むには、全員の暮らしが生っぽすぎるし、その生っぽさのせいで、ホールの泥も、魔法使いの世界の派手さも、どっちも捨てにくくなる。
だから『ドロヘドロ』は、謎が解けて気持ちよく終わる種類の漫画というより、血と煙と飯の匂いが最後まで同じところへ残り続ける漫画だと感じる。カイマンが魔法使いの頭を口へ突っ込み、ニカイドウが空腹虫でギョーザを焼き、煙ファミリーはまた平気な顔で飯を囲む。その並びが一度でも面白いと思えてしまったら、たぶんもう遅い。顔探しの話を読んでいたはずなのに、読み終わるころには、ホールの路地と鍋の湯気の林田球ワールドに引きずり込まれている。
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