【左ききのエレン】漫画はどんな話?ネタバレなし|才能がない側の仕事だけやけに生々しい漫画
才能の漫画だと思って開くと、途中から会社へ連れていかれる。
しかも、きらきらした「働くって素敵」みたいな場所ではなく、会議で案が死に、徹夜で作ったものへ赤字が入り、まだ何も終わっていないのに「じゃあ次これで」と話だけ進んでいく、あの席のほうだ。『左ききのエレン』が妙に刺さるのは、天才の眩しさを描きながら、そこで焼かれた人間が翌朝もちゃんと出社してしまうところまで見ているからだ。
朝倉 光一(あさくら こういち)は、広告代理店で働くデザイナーだ。
山岸 エレン(やまぎし えれん)は、光一が高校時代に出会ってしまった本物の天才だ。話の筋だけ言えば、その二人を軸にしたクリエイター群像劇になる。が、実際に読んでいると、まずこっちへ来るのは光一の仕事の時間だ。会議室のテーブル。モニターに映る案。自分ではまだ戦えると思っているのに、机の向こうではもう別の結論に片足が乗っている、あの嫌な空気。才能の話をしていたはずなのに、気づくと会社の椅子の硬さのほうが近い。
しかも光一、自分が凡人だと薄々分かっている。
それでもやめない。そこがいちばん面倒で、いちばん人間くさい。エレンみたいな一撃はない。誰かを一枚の絵で黙らせる力もない。なのに、何かになりたい気持ちだけは捨てきれない。そのまま会社に通って、仕事をして、また削られて、また戻る。『左ききのエレン』は、その動きを妙に細かく見ている。
【左ききのエレン】はどんな話?ネタバレなしあらすじ
朝倉光一は広告代理店で働く若手デザイナーで、仕事で名前を残したいと思っている。
大きい案件へ食い込みたいし、自分の案で勝ちたい。そういう気持ちはちゃんとある。けれど会社は、その熱をそのまま通してくれるほど親切ではない。自分では「今回はいける」と思っている。が、会議で空気が少し動くと、その案の寿命がみるみる縮んでいく。上司の一声、営業の都合、クライアントの好み、そういうものが平気な顔で乗ってきて、デザインの輪郭を鈍らせる。集英社の書誌情報でも、光一は広告代理店勤務の若手デザイナーとして始まる。
そんな光一の高校時代にいたのが、山岸エレンだ。
光一が「何かになれるかもしれない」と思っていた場所へ、エレンは最初から別の高さで立っている。絵を見た瞬間に、あ、違う、となるタイプの人間だ。努力すれば届くかもしれない、みたいな希望を残さない。光一はその眩しさへ一度きっちり焼かれて、それを引きずったまま大人になる。だから、広告代理店で削られている今の時間にも、高校時代の傷が一緒に混ざる。
話はそこから、会社の中で「自分に何が残っているのか」を確かめ続けるほうへ寄っていく。
夢を持って業界へ入る話ではある。けれど、その夢は入社式のあと急に現実へ預けられる。企画を出す。会議で削られる。修正する。評価を待つ。要領よく場を渡っていく同期を見る。格好いい先輩を見る。自分には天才の一撃がないと知りながら、それでも机へ戻る。この繰り返しが、妙に嫌で、妙に離れにくい。
エレンの側にも別のしんどさがある。
才能があるなら、それで人とうまく並べるのかといえば、そんなこともない。絵を描けることと、生きやすさは別だ。この漫画は、そのへんをきれいに整えない。光一が会社で削られていると思ったら、今度はエレンの側にある別の孤独が平気な顔で割り込んでくる。だから「凡人つらい」で話を閉じようとすると、横から別の重さが入ってくる。
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基本情報
- 原作:かっぴー
- 漫画:nifuni
- 掲載:少年ジャンプ+
- 出版社:集英社
- 既刊:25巻
- 1巻発売日:2017年12月4日
- 25巻発売日:2026年5月1日
作品の構造
会議室で案が死ぬ、その時間をちゃんと描く
広告の漫画と聞くと、プレゼンの格好よさや企画が通る瞬間を思い浮かべやすい。
『左ききのエレン』にも、もちろんそういう場面はある。けれど、読んでいてじわじわ効くのはその前後だ。自分ではまだ生きていると思っている案が、会議室の空気ひとつで急に死ぬ。修正の赤字が一本入るたび、さっきまで立っていた形がへたっていく。しかも横を見ると、場の泳ぎ方を知っている同期はちゃんと先へ行く。あの流れが、やけに嫌だ。
光一が削られるのは、才能の差を一発で見せつけられる時だけではない。
会社の中で、何回も、同じように削られる。自分では悪くないと思っていても、仕事はそれだけで通ってくれない。だから光一は「頑張る主人公」というより、今日も会社で削られている人として見えてくる。机に向かっている時間が長いぶん、そのしんどさがごまかしにくい。
エレンの絵が強い。そのせいで光一が逃げにくい
エレンは天才だ。
そこは揺れない。絵のほうから先に人を殴ってくる。見た人間の人生の置き方まで少し変えてしまう。光一が高校時代にあれを見て焼かれるのも分かる。問題は、そのあとだ。自分にはその一撃がないと分かった人間が、では何を武器に会社で座り続けるのか。その問いがずっと残る。
しかも光一、きれいに悟らない。
「自分は凡人だから」と納得して引けば、もっと読みやすい。が、そうはならない。焦るし、嫉妬するし、見苦しい。それでも仕事をやめない。そのしぶとさを、漫画のほうもきれいにしてくれないので、読んでいるこちらまでちょっと姿勢が悪くなる。エレンの眩しさと、光一のしつこさが同じページに並ぶからだ。
セリフが、場面のど真ん中に刺さる
有名なセリフは多い。
だが、名言として切り出した時より、嫌な場面の真ん中へ置かれた時のほうがずっと効く。自分に才能がないと認めたくない時。努力しているのに届かない時。会社の中で、自分の価値が少し薄く見える時。その場にぴったり嵌まる言葉が出てくるので、読む側も逃げづらい。
しかも、励まし方があまり優しくない。
「頑張れ」「夢を捨てるな」でまとめたほうがどれだけ楽か分からない。が、『左ききのエレン』はそこをいったん冷やす。才能がないなら、では何を出すのか。組織の中で残るなら、どこまで削るのか。そのへんを机の上へ普通に置いてくるので、仕事の漫画としての温度がぬるくなりにくい。
この作品が刺さる理由3つ
- 会議と修正の時間が、妙に嫌なほど具体的だ
光一が削られるのは、天才との差だけではない。会社の机の上で、案が死に、輪郭が鈍り、評価がずれていく。その過程が細かい。
- エレンの眩しさと、光一の見苦しさが同じページへ置かれる
天才を見上げるだけの話にはならない。見上げたあとに、凡人が会社でどう座り続けるのかまで描く。
- 職種が違っても、自分の仕事の記憶が混ざる
広告やデザインの仕事をしていなくても、組織の中で自分の力を使いたいのに削られる経験がある人にはかなり近い。
向き不向き
合わない人
- 1話目から強い爽快感や大きなカタルシスを求める人
- 仕事の生々しさや、才能の差を突きつけられる話がしんどい人
- 天才と凡人の関係を、もっと分かりやすく整理してほしい人
- クリエイターの苦悩を、熱血だけで押し切る話が好きな人
刺さる人
- 何かになりたい気持ちは残っているのに、自分がエレン側ではないことも分かっている人
- 夢を仕事へ持ち込んだあとに削られる感覚へ心当たりがある人
- 広告、デザイン、企画職まわりの空気に近い場所で働いている人
- 読んだあとで、自分は何で勝負するのかを考え込む漫画を探している人
まとめ
『左ききのエレン』は、天才を見上げる漫画というより、見上げたあとに会社へ行く漫画だ。
会議で削られる。修正で削られる。評価を待つ。何者かになりたいまま、また席へ戻る。光一の場面が逃げにくいのは、その動きを飛ばさないからだ。頑張る主人公の話へ寄せる前に、会社で削られている人の時間として見せてくる。
そのくせ、会社の愚痴だけでは済ませてくれない。
エレンみたいな天才が本当にいるから、光一の凡人ぶりも嫌なくらいはっきりする。そこから目をそらさず、それでも仕事をやめない。勝てない相手がいると知ったあとで、また席へ戻る。その動きがしつこい。
最初は派手な一撃の漫画には見えないかもしれない。
けれど会議室の空気、修正の赤字、嫉妬で顔が固まる瞬間、その全部が積み上がってくると、光一の話として切り離しにくくなる。天才になれない側が、それでも会社で働き、評価を待ち、また席へ戻る。その感じに心当たりがあるなら、かなり深いところまで入ってくる。
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