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【ルックバック】漫画はどんな話?ネタバレなし|絵を描くことが救いにも傷にもなる漫画

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ルックバック (ジャンプコミックスDIGITAL)

 

藤野は、学年新聞に載る自分の四コマ漫画を当然のように見ている。

教室では、藤野の漫画を読んだクラスメイトが笑う。先生も褒める。自分は絵がうまいし、漫画も描ける。小学生の教室の中で、藤野はその評価を疑っていない。紙面に自分の名前があり、そこに描いたものを周りが面白がってくれる。その時間は、藤野を少しだけ特別な場所に立たせてくれる。

けれど、同じ学年新聞に、京本という不登校の同級生が描いた四コマが載る。

その絵を見た瞬間、藤野の中で何かが崩れる。自分の漫画と並んでいるのに、線の細かさも背景の描き込みもまるで違う。教室に来ていないはずの京本が、部屋の中でどれだけ絵を描いてきたのかが、たった数コマで分かってしまう。

藤野は、すぐに負けを認められる子ではない。

悔しい。腹が立つ。見なかったことにしたい。でも、見てしまった。京本の絵が自分よりうまいことを、誰に言われなくても分かってしまった。そこから藤野は、机に向かう。放課後も、休みの日も、背中を丸めてペンを動かす。

藤野が描き始める理由は、最初からきれいに整っていない。

褒められたい。負けたくない。自分の方がすごいと思いたい。京本に認められたい。やめたいと思っても、机に向かってしまう。藤野は京本の絵に傷つけられ、京本は藤野の漫画に部屋の中で救われている。二人の間には、仲がいいという言葉だけでは片づかない順番がある。

読み進めていると、藤野や京本の表情より、机に向かう背中の方が頭に残る。

机に向かう背中。部屋にこもって描き続ける背中。誰かに見られていることを知らずに、ひたすら線を引く背中。悔しい、寂しい、戻れない。そう言葉にすると重くなりすぎる感情が、背中を丸めて描く姿の中に置かれている。

藤野は漫画を描くことで、教室の中で自分の場所を作っている。京本は、部屋から出られないまま、絵だけを学年新聞に送り出している。

藤野は京本の絵を見て机に戻り、京本は藤野の漫画を読んで部屋の外へ足を向ける。二人は会う前から、互いの描いたものに動かされている。

藤野が机に向かい続けても、描いた分だけ都合よく救われるわけではない。

京本の存在は、藤野を机に戻す理由になる。けれど同時に、京本のことを思い出すほど、原稿用紙の前で手が止まりそうになる。描くことで前へ進める日もあれば、描くことで戻れない場所を思い出してしまう日もある。

それでも藤野は、紙の前に座る。

『ルックバック』で残るのは、誰がどれだけ絵がうまいかより、描いたものが相手の人生に届いてしまう怖さだ。藤野は、漫画を描いて褒められ、京本の絵に傷つき、京本に救われる。そのあとも、紙の前に座ることから逃げきれない。

作品はどんな話?ネタバレなしあらすじ

主人公は、小学生の藤野。

藤野は、学年新聞で四コマ漫画を描いている。クラスメイトから褒められ、自分でも絵がうまいと思っている。教室の中では、藤野の漫画はちゃんと笑われ、認められ、自分の居場所になっている。

そんな藤野の前に、不登校の同級生・京本の四コマ漫画が現れる。

京本は教室には来ない。けれど、学年新聞に載った絵は、藤野が思っていた「うまい」の基準を簡単に壊してしまう。背景の描き込み、線の細かさ、絵に使った時間。その差を見せつけられた藤野は、悔しさをごまかせなくなる。

京本の絵を見たあと、藤野は机から離れられなくなる。

悔しくて、認めたくなくて、それでも鉛筆を持ってしまう。それまで褒められるために描いていた漫画が、京本の存在によって違うものになっていく。机に向かう時間が増え、絵の練習を重ね、誰にも見せないところでペンを動かす。

やがて、藤野と京本は直接出会う。

部屋にこもって絵を描いていた京本にとって、藤野はただの同級生ではない。藤野の漫画は、京本の部屋の中まで届いていた。藤野にとっても、京本はただのライバルではなくなる。自分の絵を壊した相手であり、同時に自分を描く場所へ引き戻した相手でもある。

二人は、漫画を通して近づいていく。

藤野と京本は、互いの描いた漫画によって、進む場所を変えられていく。藤野は褒められて得意になり、京本の絵で傷つき、一緒に描く時間を知り、描き続けることから逃げられなくなる。

 

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基本情報

作者:藤本タツキ
掲載:少年ジャンプ+
出版社:集英社
レーベル:ジャンプコミックス
巻数:全1巻
ページ数:144ページ
発売日:2021年9月3日
ジャンル:青春、創作、ドラマ、人間関係
メディア展開:劇場アニメ化
劇場アニメ監督:押山清高

『ルックバック』は、藤本タツキによる青春長編読切。

『チェンソーマン』の作者として知られる藤本タツキの作品だが、この漫画ではバトルや派手な設定ではなく、机に向かって絵を描く二人の少女を中心に進んでいく。舞台は大きく広がらない。教室、部屋、机、原稿用紙。目立つ道具はそれほど多くない。

教室で笑われる四コマ、京本の描き込まれた背景、机に向かう藤野の背中。短い場面が続くだけなのに、藤野が何を失い、何を手放せなかったのかが伝わってくる。

藤野が自分の漫画を褒められている時の表情。京本の絵を見たあと、何も言えなくなる感覚。部屋から出られなかった京本が、藤野の言葉で外へ向かう場面。二人とも、言葉で理由を整理する前に、描いたものに反応して体が動いてしまう。

藤野が机に向かう理由は、才能を磨きたいからだけではない。

褒められたい気持ちもある。京本に負けたくない気持ちもある。自分の方がすごいと思いたい気持ちもある。そのどれも消えないまま、藤野はペンを持つ。藤野の悔しさは、立派な努力として始まらない。京本に負けたくないという感情が、机に向かう時間を増やしていく。

 

作品の構造

世界観

舞台は、田舎町の小学校と、京本の部屋から始まる。

藤野は教室にいる。学年新聞に漫画を載せ、友だちに褒められ、先生からも認められている。漫画は、藤野にとって自分を少し特別に見せてくれるものだ。

一方で、京本は教室にいない。

学校に来ない京本は、部屋の中で絵を描いている。藤野とは違い、教室で褒められているわけではない。それでも、京本の絵は紙面に載った瞬間、藤野の前に現れる。会ったことのない相手なのに、その絵だけで藤野の自信を壊してしまう。

会っていないのに、京本の絵は藤野の自信を折る。藤野の漫画もまた、京本の部屋まで届いている。

同じ学校にいるのに、二人は最初から同じ場所にはいない。藤野は教室で漫画を描き、京本は部屋で絵を描く。二人をつなぐのは会話ではなく、学年新聞に載った四コマだ。

藤野は教室で笑われ、京本は部屋で描いている。同じ学校にいるのに、二人の間には学年新聞一枚ぶんの距離がある。

学年新聞に載った四コマをきっかけに、藤野は机に向かう時間を増やし、京本は藤野に会うために部屋の外へ出ようとする。

物語の進み方

藤野の自信は、京本の四コマが学年新聞に載った瞬間に崩れる。

藤野はそれまで、学年新聞の四コマでクラスの中心にいる。自分の漫画が面白いと言われる。自分には才能があると思っている。そこに、京本の四コマが並ぶ。

藤野は、京本の絵を無視できない。

ただ負けたと思うだけでは終わらない。悔しいから練習する。練習しても追いつけないような気がする。やめようとする。けれど、完全には切り離せない。京本の絵を見てしまったあと、藤野にとって漫画はもう、ただ褒められるためのものではなくなる。

そこから、二人は出会う。

藤野が京本の家を訪れる場面は、この作品の中でも大きな転換点だ。教室に来ない京本の部屋に、藤野の漫画が届いていたことが分かる。藤野が思っていたライバルは、藤野の漫画にずっと励まされていた相手でもあった。

藤野だけが京本を意識していたわけではなかった。京本もまた、藤野の漫画を部屋の中で読んでいた。

藤野は京本の四コマを見て机に戻り、京本は藤野の漫画を読んで部屋の中で励まされていた。

二人で描き始めたあとも、物語は明るい達成感だけを積み上げていかない。

一緒に描く時間がある。離れていく時間もある。選ぶ道も変わっていく。ページ数は短い。それでも、藤野が机に向かう場面、京本が部屋で描く場面、原稿用紙に線が増えていく場面は、読み終えたあとも思い出しやすい。

作品テーマ

藤野は漫画を描いて褒められるが、同じ漫画によって京本との差を見せつけられる。京本は絵を描くことで部屋の外とつながるが、その絵は藤野を深く傷つける。

藤野は、漫画を描くことで認められる。クラスメイトに褒められ、自分は特別だと思える。けれど京本の絵を見た瞬間、その同じ漫画が藤野を傷つける。自分よりうまい相手がいる。その事実は、藤野の中に深く刺さる。

京本にとって、絵は部屋の外へ届くものだ。

教室に出られない京本は、部屋の中で絵を描く。机に向かい、背景を描き、線を重ねる。その絵が学年新聞に載り、藤野の目に届く。京本は教室にいないのに、絵だけは藤野のいる場所まで来ている。

藤野が描き始める理由には、褒められたい気持ちも、京本に負けたくない気持ちも混ざっている。

描く理由には、嫉妬もある。見栄もある。誰かに褒められたい気持ちもある。あの子に負けたくない気持ちもある。この作品では、嫉妬や見栄が消されないまま、藤野の練習する時間につながっていく。

藤野は悔しいから鉛筆を持ち、京本に負けたくないから描き込みを増やしていく。

藤野の漫画は京本の部屋に届き、京本の絵は藤野を机に戻す。二人が直接会う前に、藤野は京本の背景を見て悔しがり、京本は藤野の四コマを部屋で読んでいる。

絵を描いたことがなくても、藤野の悔しさは分かる場面がある。

自分のやっていることを誰かに見てほしかったことがある人。誰かの存在に負けたくないと思ったことがある人。何かを続ける理由が、きれいな言葉だけでは説明できなかったことがある人。そういう記憶を持っている人ほど、藤野が背中を丸めて描く場面で、少し呼吸が止まる。

この作品が刺さる理由3つ

京本の絵を見た藤野が、悔しさで机に戻っていく

『ルックバック』の藤野は、最初から立派な創作者として描かれるわけではない。

学年新聞の四コマを褒められて、自分は絵がうまいと思っている。クラスメイトが笑ってくれることで、藤野は自分の漫画に自信を持つ。そこまでは、少し得意げな小学生として自然に見える。

だから、京本の絵を見た時に藤野が黙り込む場面が効いてくる。

藤野は、京本の絵を素直に褒められない。悔しい。見たくない。自分よりうまい相手がいると認めたくない。藤野は、悔しくなかったふりをしない。京本に負けたくないから、放課後も休みの日も描く時間を増やしていく。

藤野は、最初からきれいな努力家ではない。

京本に負けたくなくて、悔しくて、机に戻る。その格好悪さがあるから、背中を丸めて描く時間に体温が残る。褒められたい気持ちも、京本に勝ちたい気持ちも残ったまま、藤野は机に向かっている。

藤野の漫画が、京本の部屋まで届いていた

京本は、教室にいない。

学校の中で直接話す相手ではなく、まず絵だけが藤野の前に現れる。藤野が見ているのは京本本人ではなく、学年新聞に載った四コマだ。それでも、その絵だけで京本がどれだけ描いてきたのかが伝わってくる。

京本は教室に出ていない。それでも、京本が描いた四コマは学年新聞に載り、藤野の目に届く。

外に出られなくても、紙に描いたものは誰かに見られる。藤野はその絵に傷つき、悔しがり、机に向かう。京本も、藤野の漫画を部屋で読んでいる。二人は会う前から、互いの漫画で行動を変えられている。

藤野が京本の家を訪れることで、紙面の上だけにいた相手が、目の前の同級生になる。

部屋にいた京本が、藤野の漫画をどう見ていたのか。藤野の存在が京本にとって何だったのか。そこが分かると、序盤の学年新聞の意味が変わる。藤野にとっては敗北のきっかけだった京本の絵が、京本にとっては外へつながる細い線でもあった。

この二人は、性格が似ているわけではない。

藤野は前に出る。京本は部屋にこもる。藤野は悔しさを外に出し、京本は絵の中に時間を積む。それでも、二人は漫画でつながる。二人が直接話す前から、互いの漫画に反応していたことが、出会いの場面をただの初対面に見せない。

藤野と京本の背中に、描いてきた時間が出ている

『ルックバック』は、藤野や京本に感情を長く語らせない。

感情を長い台詞で言わせるより、机に向かう姿を見せる。藤野が背中を丸めて描く。京本が部屋で描く。紙の上に線が増えていく。藤野が机に向かう場面が重なるほど、京本に追いつこうとして削った時間が見えてくる。

顔を見せずに、背中だけが画面に残る場面がある。

表情が見えないぶん、背中を丸めて机に向かう姿から、藤野がまだ描くことを手放せていないのが伝わってくる。言葉にできないまま机に向かっている時間が、原稿用紙の前に座る姿として描かれている。

この漫画のタイトルが『ルックバック』であることも、最後まで読むと序盤の背中の場面に戻ってくる。

振り返る。背中を見る。過去を見る。読んでいる途中では一つの意味に決められない言葉が、最後まで読むと、最初はただ机に向かっているように見えた背中へ戻ってくる。

一度読み終えると、序盤の四コマや京本の部屋をもう一度見たくなる。

一度目は藤野と京本の出来事を追い、二度目は机に向かう背中や学年新聞の四コマに目が向く。藤野が京本の絵を見て机に戻った場面と、京本が藤野の漫画を読んでいた事実を、もう一度つなげて読みたくなる。

向き不向き

合わない人

・明るい青春漫画だけを読みたい人。
・事件性の強い展開を完全に避けたい人。
・描くことや作ることの苦しさが前面に出る作品を避けたい人。
・長期連載のようなキャラクター成長を期待する人。
・読み終えたあとに静かな痛みが残る作品が苦手な人。

刺さる人

・絵や文章など、何かを作った経験がある人。
・嫉妬や悔しさで努力したことがある人。
・全1巻で、読み終えたあとに何度も場面を思い返す漫画を読みたい人。
・藤本タツキ作品の、表情や間で感情を残す話が好きな人。
・机に向かう背中だけで感情が伝わる漫画が好きな人。

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まとめ

『ルックバック』は、藤野と京本が、互いの描いた漫画によって進む場所を変えられていく青春漫画だ。

藤野は、最初から立派な人間ではない。学年新聞の四コマを褒められて、自分には才能があると思っている。そこに京本の絵が並んだ瞬間、藤野の自信は崩れる。悔しい。認めたくない。けれど、京本の絵を見なかったことにはできない。

京本は、教室にいない。けれど、絵だけは教室に届いている。

部屋で描き続けた京本の線は、藤野の目に届く。藤野が描いた漫画は、京本の部屋に届く。二人は会う前から、互いの描いたものに動かされている。

『ルックバック』では、描く理由が最初からきれいに整っていない。

描くことは楽しい。褒められれば嬉しい。誰かと一緒に描ける時間は、かけがえがない。けれど、描くことは同時に苦しい。自分よりうまい相手を見れば傷つくし、続ける理由を失うこともある。

藤野は机に向かうことで京本に近づき、同じ机の前で京本のことを思い出して苦しくもなる。

それでも藤野は、紙の前に座る。

背中を丸めて、ペンを握る。京本の絵を見た悔しさも、京本に救われた記憶も残したまま、藤野は原稿用紙に向かう。

藤野が忘れられなくなるのは、京本の絵のうまさだけではない。自分の漫画が京本の部屋に届いていたことまで含めて、紙の前に座る理由になっていく。

自分よりうまい人を見て、机に向かう手が止まったことがあるなら。逆に、その人の存在があったからもう一度始められたことがあるなら。藤野が背中を丸めて描く場面で、少し呼吸が止まる。

読み終えたあと、もう一度最初のページへ戻りたくなる。
あの四コマを、あの部屋を、あの背中を、もう一度見たくなる。

『ルックバック』は、全1巻の中で、藤野が机に戻る理由を何度も変えていく漫画だ。褒められたから描く。負けたくないから描く。京本のことを忘れられないから、それでも紙の前に座る。

 

 

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