翠くんは、学校の外にいる憧れの相手ではなく、スイの家で顔を合わせる相手だ。
会おうとしなくても、翠くんは家に来る。会話もする。家庭教師として、勉強机の横に座ることもある。けれど、翠くんが家に来る理由はスイではない。彼は、お姉ちゃんの恋人としてそこにいる。
スイが翠くんを好きだと気づく前から、翠くんにはもう「お姉ちゃんの彼氏」という場所がある。
スイは、最初から翠くんに惹かれていたわけではない。七歳年上の大学生で、余裕のある態度でからかってきて、こちらを子ども扱いする人。自分よりずっと大人で、お姉ちゃんの隣にいる人。腹を立てていれば済む相手だったはずなのに、家庭教師として隣に座る時間が増えたことで、同じからかいのはずの言葉を前と同じように受け流せなくなっていく。
勉強中につまずいたところに気づかれる。軽くからかわれたあとで、ふいにこちらの様子を見られる。腹が立つはずの余裕の中に、スイを気にする目線が混ざっている。
翠くんは、遠くから眺めていられる相手ではない。
家に来て、勉強机の横に座り、何気ない距離で話しかけてくる。近くにいるから意識してしまう。けれど、翠くんの隣には最初からお姉ちゃんがいる。
翠くんに心が動いた瞬間、スイの頭にはお姉ちゃんの顔が浮かぶ。
翠くんは年上で、優しくて、距離も近い。けれど、そこにお姉ちゃんの名前が必ずついてくる。普通なら嬉しいはずの優しさが、スイにはそのまま喜べないものになる。
恋を動かすのは、大きな事件よりも、家の中で交わされる何気ない会話だ。
家に来る翠くん。隣で勉強を見てくれる時間。子ども扱いされて反発するスイ。お姉ちゃんの隣にいる翠くんを見て、何もなかったように振る舞うしかない時間。翠くんの態度は大きく変わらないのに、スイだけがその言葉を意識するようになっていく。
好きになった相手は、最初から「お姉ちゃんの翠くん」だった。
その名前がある限り、スイは彼をただの好きな人として見られない。家の中で顔を合わせるたび、隣に座られるたび、からかわれるたびに、彼が誰の恋人なのかを思い出してしまう。
やわらかい絵柄の中で描かれるのは、家にいる相手を好きになってしまった時の、隠しようのない片思いだ。
作品はどんな話?ネタバレなしあらすじ
主人公は、高校生の咲苗翠(さなえ すい)。通称、スイ。
スイには、苦手な人がいる。姉の彼氏である大学生・雪代翠(ゆきしろ みどり)、通称・翠くんだ。翠くんはスイより七歳年上で、家に来るたびにスイを子ども扱いしてからかってくる。
最初のスイにとって、翠くんは余裕ぶってからかってくる、苦手な年上だった。
こちらが反発しても、翠くんは年上の態度を崩さない。スイの反応を軽く受け流す。その態度が腹立たしい一方で、翠くんが家庭教師として勉強を見てくれるようになったことで、二人の距離は少しずつ変わっていく。
勉強を教えてもらう時間が増える。からかわれる。言い返す。けれど、ふとした瞬間に、翠くんの違う表情や言葉に触れてしまう。その場では言い返した言葉を、スイはあとから何度も思い返すようになる。
けれど、翠くんの隣にはお姉ちゃんがいる。
スイがどれだけ翠くんを意識しても、その事実は消えない。優しさに反応しそうになるたび、お姉ちゃんの存在が先に浮かぶ。相手は年上で、家庭教師で、何より姉の隣にいる人。意識すればするほど、スイは翠くんの前でも、お姉ちゃんの前でも、いつもの顔を作るのが難しくなる。
【お姉ちゃんの翠くん】で描かれるのは、好きになる前から相手の居場所が決まっている恋だ。
会えない寂しさではなく、会えてしまうからこそ、スイはそのたびに気持ちを隠すことになる。
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基本情報
作者:目黒あむ
掲載:別冊マーガレット
出版社:集英社
レーベル:マーガレットコミックス
巻数:既刊11巻
状態:連載中
ジャンル:少女漫画、恋愛、青春、年の差、片思い
メディア展開:実写映画化
映画公開日:2026年12月4日
【お姉ちゃんの翠くん】は、目黒あむによる少女漫画。
主人公のスイが好きになってしまう相手は、大学生の翠くん。翠くんは年上で、家庭教師で、何より姉の隣にいる人だ。
スイを苦しくさせるのは、翠くんに会えないことではない。むしろ翠くんは近い。家に来るし、話すこともできる。勉強を見てもらう時間もある。けれど、翠くんが家に来る理由は、スイではなくお姉ちゃんにある。
子ども扱いされて腹が立つのに、少し優しくされると目で追ってしまう。その直後に、スイはお姉ちゃんのことを思い出す。
年上男子にからかわれる甘さと、姉の彼氏を好きになっている後ろめたさが、同じ場面の中にある。その重なり方が、【お姉ちゃんの翠くん】の恋を苦くしている。
作品の構造
世界観
物語の多くは、学校と家、そして翠くんが家庭教師として座る勉強机の近くで進んでいく。
スイの片思いは、会えない相手を遠くから眺める形では進まない。翠くんはスイの日常の中にいる。家に来て、会話をして、勉強を見る。距離だけなら近い。けれど、その近さはスイのためだけにあるものではない。
翠くんは、姉の彼氏としてそこにいる。
家にいるから会える。会えるから意識してしまう。しかし、翠くんを意識した瞬間、スイの前には必ずお姉ちゃんの存在が立ち上がる。好きな人が家に来ることは、本来なら嬉しいはずなのに、スイにとっては自分の気持ちを隠す時間にもなる。
見ないようにしても声がする。距離を置こうとしても、家庭教師として隣に座る。スイは、家の中でも翠くんを意識しない場所を作りにくくなる。
物語の進み方
物語は、スイが翠くんを苦手だと思っているところから始まる。
翠くんは七歳年上で、姉の彼氏。スイのことを子ども扱いしてからかってくる。スイはその余裕ある態度が面白くない。最初は、腹を立てていれば済む相手だった。
けれど、家庭教師として近くにいる時間が増えると、スイは翠くんの態度をただのからかいとして受け流せなくなる。
勉強を教えてくれる時の距離。困っているところに気づく視線。軽口のあとに見える優しさ。その場では言い返した言葉を、スイはあとから何度も思い返すようになる。
それでも、スイはすぐに好きだとは言えない。
翠くんの隣にはお姉ちゃんがいる。自分は家の中で、いつもの妹として振る舞わなければならない。翠くんを見ている時間が増えていると気づいた時点で、もう翠くんをただ苦手な年上としてだけ見ることはできない。
物語は、告白や大きな事件よりも、スイが翠くんの言葉をどう受け取るようになるかを追っていく。腹を立てる。あとから思い出す。次に会った時、また意識してしまう。そのたびに、スイは翠くんを意識している自分から目をそらせなくなる。
作品テーマ
スイが翠くんを好きだと気づく前から、翠くんはもうお姉ちゃんの隣にいる。
翠くんは、姉の彼氏として家に来ている。だからスイが翠くんを意識しても、その先にはすぐお姉ちゃんの存在がある。相手は年上で、家庭教師で、子ども扱いしてくる人で、何より姉の隣にいる人だ。
翠くんが玄関を通るだけで、スイはいつもの妹の顔を作らなければならない。
本当は別の言葉が出そうでも、いつものように言い返す。子ども扱いされることに反発しながら、その視線の中で一人の女の子として見てほしいと思ってしまう。翠くんの年上らしい余裕にときめく場面はある。けれど、そのたびにスイは「お姉ちゃんの彼氏」を相手にしていることを思い出す。
翠くんに近づける場面ほど、スイは自分が立っている場所を思い知らされる。
翠くんが近くに座る嬉しさのすぐ横に、言ってはいけない気持ちがある。家の中で顔を合わせるたび、家庭教師として隣に座られるたび、スイはその両方を抱えることになる。
この作品が刺さる理由3つ
翠くんが隣に座るほど、スイはいつもの妹でいなければならない
翠くんは、スイが見ないふりをするには近すぎる。
家に来て、隣に座って、普通に話せてしまう。遠くの学校にいる憧れの先輩ではなく、姉の彼氏としてスイの生活に入ってくる。会話できる。勉強も教えてくれる。近くに座られるたび、スイは翠くんの言葉や表情を拾ってしまう。
しかし、翠くんが家に来る理由は、スイに会うためではない。
優しくされた瞬間にも、スイの頭にはお姉ちゃんの姿がよぎる。好きな人に近づけたはずなのに、そのあとでお姉ちゃんの顔が浮かぶ。翠くんを嫌いだと決めつけられたら楽なのに、勉強中の何気ない優しさまで覚えてしまう。
会えないなら距離を置けたかもしれない。けれど翠くんは、また家に来る。
子ども扱いされるたび、スイはその視線から抜け出したくなる
翠くんは、スイを七歳年下の女の子として見ている。
からかう。余裕を見せる。子ども扱いする。スイがムキになっても、翠くんは年上の顔で受け流す。スイにとって、それは腹の立つ態度だ。自分を対等に見てくれていないように感じる。
けれど、翠くんの子ども扱いには、からかいだけでなく、面倒を見ようとする優しさも混ざっている。
困っている時に気づく。勉強を教える。軽くからかいながらも、距離を完全には突き放さない。嫌な人だと決めつけたいのに、翠くんはその直後に優しくする。
スイは、翠くんにお姉ちゃんの妹としてではなく、自分自身として見てほしくなっていく。
子ども扱いに腹を立てながら、同じ相手に見てほしいと思ってしまうところが苦い。
翠くんがお姉ちゃんと同じ部屋で笑うたび、スイはいつもの妹に戻る
学校で会うだけの恋なら、放課後に距離を置けたかもしれない。
翠くんは家に来る。お姉ちゃんの隣にいる。家庭教師としてスイの近くにも座る。好きな人でありながら、お姉ちゃんと同じ部屋で笑っている人でもある。
学校だけで会う相手なら、連絡を取らなければ距離を置ける。けれど翠くんは家にいる。お姉ちゃんと話す声まで、スイのいる場所に届いてしまう。
スイは、お姉ちゃんの前でも、翠くんの前でも、いつもの妹として振る舞わなければならない。
隣に座っているのに、どんな顔を向ければいいのか分からなくなる。ただの家庭教師中の会話でも、翠くんの一言をあとから思い出してしまう。言いたいことはあるのに、家の中ではそれを簡単に外へ出せない。
だからスイは、家にいる時でさえ、翠くんを好きな自分を隠さなければならない。
向き不向き
合わない人
・恋がすぐに両想いへ進む展開を求める人。
・好きになってはいけない相手への恋が苦手な人。
・姉の彼氏を好きになる設定に抵抗がある人。
・もどかしい片思いを長く読むのが苦手な人。
・年上男子の余裕ある態度にイライラしやすい人。
刺さる人
・好きになってはいけない恋のしんどさを読みたい人。
・年上男子に子ども扱いされる恋愛漫画が好きな人。
・生活の中にいる相手を好きになってしまう恋に弱い人。
・片思いの苦しさをじっくり味わいたい人。
・表情や会話の小さな変化で恋が動く作品が好きな人。
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まとめ
【お姉ちゃんの翠くん】は、スイが「お姉ちゃんの彼氏」をただの家族の知り合いとして見られなくなっていく物語だ。
翠くんは最初、スイにとって苦手な年上でしかなかった。七歳年上で、大学生で、余裕があって、子ども扱いしてくる。しかも、隣にはいつもお姉ちゃんがいる。
それでも、家庭教師として近くにいる時間が増えることで、スイはもう、翠くんに腹を立てるだけでは済まなくなる。
からかう口調のあとで、スイの様子を確かめるような視線が入る。勉強中につまずいたところを見ている。その場では言い返した言葉を、スイはあとから思い返してしまう。
けれど、翠くんは姉の彼氏だ。
家に来るし、話すこともできる。隣で勉強を見てくれる。それでも、スイは言いたいことほど翠くんに向けられない。優しくされた瞬間にも、お姉ちゃんの顔が浮かぶ。
好きになった相手は、最初から「お姉ちゃんの翠くん」だった。
翠くんが家に来るたび、スイはその名前を思い出してしまう。近くにいるからときめく。近くにいるから隠さなければならない。その苦さが、家の会話や家庭教師の時間の中に少しずつ増えていく。
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