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【あせとせっけん】漫画はどんな話?ネタバレなし|“におい”がきっかけの恋なのに、驚くほど誠実なラブコメ

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あせとせっけん(1) (モーニングコミックス)

 

タイトルと設定だけを見ると、誤解されやすい作品だ。

汗を人一倍かきやすく、それを長年恥じてきた女性。香りを仕事にし、その体臭に強く惹かれる男性。舞台は化粧品・バス用品メーカー。出会いのきっかけだけを見れば、もっと露骨な下ネタ寄りのラブコメを想像してもおかしくない。

実際、商品開発部の名取香太郎が経理部の八重島麻子に興味を持ったきっかけは、麻子自身が誰よりも隠したがっている汗の匂いだ。初対面から距離感は近く、職場の同僚としては危うい。麻子が戸惑うのも当然だろう。彼女にとって汗は、誰にも触れられたくない領域だったからだ。

それでもこの作品は、名取を単なる不躾な男として描かない。彼は麻子の匂いに惹かれていることを隠さない。ただし、麻子の反応を無視して踏み込んでいくタイプでもない。頬を赤らめる。体をこわばらせる。言葉に詰まる。そうした麻子の反応を、名取はちゃんと見ている。一歩近づいても、そこで無理に押し切ることはしない。

この「踏み込みそうで、踏み込みきらない間」があるからこそ、『あせとせっけん』は薄っぺらいフェチ漫画に落ち着かずに済んでいる。汗や匂いという身体に近い題材を扱いながらも、物語はいつも「相手が隠してきたものに、どこまで触れていいのか」という一点へ戻ってくる。匂いフェチという入口から始まりながら、恋愛描写だけは妙に誠実に見えてくる作品だ。

 

 

ネタバレなしあらすじ

八重島麻子は、化粧品・バス用品メーカー「リリアドロップ」の経理部で働く女性だ。仕事には真面目に向き合っているが、人一倍汗をかきやすい体質だけは、ずっと自分の弱点として抱え続けてきた。汗そのものよりも、「周りに気づかれているのではないか」「不快に思われているのではないか」という不安のほうが、麻子の毎日を息苦しくさせている。

そこに現れるのが、商品開発部の名取香太郎だ。香りに対する感覚が鋭く、その嗅覚を石鹸の商品開発に活かしている人物である。麻子が必死に隠そうとしている匂いに、彼は仕事上の関心だけでは説明のつかないほど強く惹かれていく。

この出会い方には、どうしても危うさがつきまとう。麻子にとって自分の汗は、他人には触れられたくない領域だ。そこへ名取は、かなり直接的に踏み込んでくる。だから麻子が最初に抱く感情は、ときめきよりも先に恥ずかしさや怖さのほうが強い。

それでも名取は、麻子の反応を無視したまま先へは進まない。匂いに惹かれていることは隠さないし、近づき方も独特だが、麻子自身を置き去りにはしない。頬を赤らめる瞬間、身を引く仕草、ふと表情が緩む瞬間。そうした麻子の反応を見ながら会話を重ねるうちに、二人のやり取りはただの職場の会話ではなくなっていく。

『あせとせっけん』は、汗をかきやすい体質に悩む女性と、匂いに敏感な男性が職場で出会い、少しずつ恋人としての関係を築いていく社会人ラブコメだ。ただし、フェチ要素を一発ネタとして消費する作品でも、恋人同士の甘さだけでページを埋める作品でもない。麻子のコンプレックスも名取のこだわりも、最初からきれいに噛み合うわけではなく、何が嫌で、何が怖くて、何が少し嬉しかったのかを、二人は時間をかけて確かめ合っていく。

一文で言えば、『あせとせっけん』は、汗っかきな体質をコンプレックスにしてきた八重島麻子と、匂いに強く惹かれる商品開発部員・名取香太郎が、職場で少しずつ距離を縮めていく誠実な社会人ラブコメだ。

 

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作品データ

作者:山田金鉄
出版社:講談社
掲載誌:週刊Dモーニング、モーニング
レーベル:モーニングKC
巻数:全11巻
状態:完結済み
ジャンル:青年漫画、社会人恋愛、職場恋愛、ラブコメ
メディア展開:実写ドラマ化
実写ドラマ:2022年2月〜4月、MBS「ドラマ特区」枠で放送
主演:佐藤寛太、大原優乃
受賞歴:第2回電子書籍で読みたいマンガ大賞 大賞、第3回マンガ新聞大賞 第2位ほか
シリーズ累計発行部数:440万部突破

世界観と物語の骨格

舞台になっている世界

物語の中心にあるのは、化粧品・バス用品メーカーという職場だ。石鹸、香り、デオドラント。汗や匂いは二人の恋愛のきっかけであると同時に、商品開発という実際の仕事にも直結している。だからこの作品では、匂いという題材が単なるフェチ描写として浮いてしまわない。麻子個人のコンプレックスと、名取の仕事に対する姿勢が、同じ職場の中で自然に重なり合っている。

麻子の「隠したい」という気持ちと、名取の「知りたい」という欲求は、最初から都合よく噛み合うわけではない。麻子にとって汗は弱点そのものであり、名取にとってはむしろ魅力の入口になる。だからこそ二人の会話には、甘さの前に、相手の反応を確かめる間が挟まる。名取が近づけば、麻子が戸惑う。そこで一気に押し切るのではなく、必ず言葉のやり取りが挟まっていく。

職場という舞台であることも、この作品の空気を軽くしすぎない要因になっている。二人は恋人である前に、同じ会社で働く社会人でもある。仕事、同僚、責任というものが常について回るため、会社での顔と二人きりのときの顔は同じではない。

物語はどう転がっていくのか

物語は、麻子が名取に匂いを嗅がれる場面から動き出す。入口だけを見れば強引さのほうが目立つが、そこから先の展開は、刺激の強さを積み増す方向には進まない。名取は自分の匂いへのこだわりを隠さず、麻子は驚き、恥ずかしがり、戸惑う。それでも二人は、不安や違和感を長く黙ったままにしておかない。

不安になれば口に出し、誤解しそうになれば確認し合い、嫌なことは嫌だと伝え、嬉しいことは照れながらも受け取っていく。そうした確認の積み重ねによって、二人の距離は少しずつ縮まっていく。

とはいえ、穏やかだからといって何も揺れないわけではない。麻子のコンプレックスは簡単には消えないし、名取の匂いへの熱量も、麻子にとって常に受け止めやすいものとは限らない。職場恋愛だからこそ、周囲との関係や仕事上の振る舞いにも神経を使う必要がある。名取が踏み込む場面には、いつも麻子の反応が描かれる。赤くなる、驚く、身を引く、少し迷いながらも言葉を返す。その反応が無視されないからこそ、身体的な距離が近い場面であっても、乱暴さより先に温度が伝わってくる。

この漫画が描いているもの

麻子はずっと、自分の汗を嫌ってきた。できるなら消したい。人に知られたくない。汗をかく自分をどこかで責めてしまう。麻子にとって汗は、恋愛以前に、日々の生活の中で自分自身を小さくさせてしまう存在だった。

その麻子の前に、匂いを仕事にし、匂いに惹かれる名取が現れる。名取が見ているのは、麻子の匂いだけではない。仕事に向き合う姿勢、恥ずかしがる表情、自信のなさ、そして少しずつ自分を受け入れようとする変化。匂いを入口にしながらも、名取の関心は麻子という人間全体へと自然に広がっていく。

名取が近づくたびに、麻子の恥ずかしさや不安もきちんと言葉にされていく。汗や匂いという身体的な話題を扱いながら、麻子自身の気持ちが置き去りにされることはない。この作品が描いているのは、相手が長く隠してきたものに触れるときの、危うさとやさしさの両方だ。

この作品が刺さる理由3つ

1. 名取が近づくたび、麻子の戸惑いもきちんと描かれる

導入のインパクトは強いが、この作品は刺激の強さだけで進まない。名取が一歩近づいたあと、麻子の反応を待つ時間が必ずある。単純な押し引きではなく、互いの気持ちを確かめ合う過程が丁寧に描かれる。

2. 麻子が嫌ってきた汗を、名取の言葉が少しずつ変えていく

名取の「その匂いが好きだ」という言葉は、麻子にとって単なる褒め言葉では済まない。長年欠点だと思ってきたものを、別の角度から見せてくれる言葉だからだ。すぐに自信が持てるわけではないが、少しずつ自分の体への見方が変わっていく。

3. 恋人になっても、二人の仕事と生活が消えない

同じ会社で働く二人には、それぞれの仕事と責任がある。恋人になったからといって世界がすぐに二人だけのものになるわけではなく、その現実の中で距離を調整していく過程がある。だから甘い場面が続いても、関係に幼さが残りにくい。

こんな人には特におすすめ/合わないかもしれない人

おすすめしたい人

・相手の不安を置き去りにしない恋愛漫画を読みたい人。
・コンプレックスを肯定される物語に弱い人。
・匂いや石鹸など、感覚的なモチーフが好きな人。
・過度なすれ違いより、信頼が積み重なる恋愛が好きな人。

あまり合わないかもしれない人

・匂いフェチという設定に強い抵抗がある人。
・恋愛に大きな三角関係や波乱を求めている人。
・身体的なコンプレックスを扱う話が苦手な人。

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最後に

『あせとせっけん』は、汗を隠して働いてきた麻子が、その汗を魅力として受け止める名取と出会う物語だ。汗、匂い、石鹸、フェチ、職場恋愛。要素だけを並べれば、もっと露骨なラブコメを想像してもおかしくない。けれど物語が進むほど前面に出てくるのは、フェチ的な強さよりも、二人がどうやって距離を測っていくかというプロセスのほうだ。

名取は麻子の匂いに惹かれ、近づいていく。それでも麻子が戸惑えば、そこで立ち止まり反応を見る。麻子もまた、恥ずかしさや怖さを飲み込むだけでなく、少しずつ言葉にして返していく。麻子は自分の汗を嫌ってきたし、名取はその匂いを魅力として受け止める。ただしそれは、麻子を一方的に消費するという意味ではない。

石鹸の香りがする職場で、二人は相手の強さより先に、互いの弱さを知っていく。すでに全11巻で完結しており、実写ドラマ化もされているので、原作を読んでから映像版と見比べる楽しみもある。読み終えたあとに残るのは、変わった設定の印象だけではない。自分が嫌ってきたものを、誰かに丁寧に扱ってもらえることの救われ方が、静かに残る。

 

 

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